
シシノメラボの活動を、最も近い現場で支えている一人が、千葉県御宿町で猟師として活動する宮嵜さんです。日々、獣害対策の最前線に立ちながら、「捕って終わり」にしない仕組みづくりに向き合ってきました。
今回は、猟師という立場から見たシシノメラボの存在意義、そして命と向き合う現場のリアルについて、宮嵜さんの言葉で語っていただきます。
―猟師として生きるまでの道のり
■まずは、宮嵜さんが猟師になるまでのお話を聞かせていただけますか?
宮嵜さん:
私は大阪府出身で、東京の大学を卒業後、約10年間老人ホームで介護の仕事をしていました。その後、長男の誕生をきっかけに、「自然の中で子どもを育てたい」と思うようになり、千葉県御宿町へ移住したんです。
移住後は、地域おこし協力隊として「獣害対策」をミッションに活動していました。前職からするとまったくの異業種ですが、もともと幼少期から虫を捕まえたり、自然の中で過ごしたりすることが好きで、「いつかは山の中で仕事をしてみたい」という思いが心のどこかにずっとありました。今振り返ると、そこが猟師になる原点だったのだと思います。
協力隊の任期中は、先輩猟師について現場を回りながら、罠の設置や捕獲、解体などの実務を一つひとつ学びました。そして任期終了後、猟師として独立したという流れです。
現在は、「オンジュクジビエラボラトリー」として活動しています。「狩猟を通して獣と人が
バランスよく生きて行くために何が出来るかを考えていきたい」。そんな思いから立ち上げた事業です。
キョン(小型のシカ)やイノシシなどの有害鳥獣を捕獲するほか、狩猟体験ツアーも開催し、獣害対策と食文化の普及、ジビエの価値向上を目指して活動しています。
―狩猟の現場と地域のリアル
■普段、どんなスタイルで猟をされていますか?
宮嵜さん:
基本は個人猟で、ひとりで動くことが多いですね。
仕事の流れとしては、くくり罠を作り、山の中で獣道を探して罠を設置し、毎日見回りをして捕獲する、というのが基本です。
猟友会や地元の猟師のグループにも所属しているので、困ったことがあればお互いに助け合いながらやっています。
■この地域ではどのような獣害が起きていますか?
宮嵜さん:
御宿町では、7〜8年前まではイノシシの被害が目立っていましたが、現在はキョンによる被害が特に増えています。町中でも普通にキョンを見かけるほどで、獣害はすでに日常的な課題になっています。一方で、地区によっては今もイノシシによる農作物被害や掘り起こしに悩まされているところもあり、状況は場所ごとに異なります。
■猟師の現場で、どんなことを感じていますか?
宮嵜さん:
命を扱う仕事なので、当然責任は重いです。ただ、苦しいというよりも、“考えさせられること”がとても多い仕事だと感じています。
命をどう扱い、どう活かすのか。そして、地域とどう関わっていくのか。日々の仕事の中で、そうしたことと常に向き合っています。
■これまで「肉」や「皮」など、どのように活用されてきましたか?
宮嵜さん:
以前は解体処理施設がなかったため、捕獲した獣のほとんどを焼却処分していました。命の価値が、そこで途切れてしまっていたんです。
「仕方ない」と言いきかせてきた現実ですが、ずっと違和感がありました。「ただ捨てるのは絶対に違う、何か意味のある形にできないか」とずっと考えていたんです。捕獲しては処分する、という流れ作業のような日々の中で、「自分は一体、何のためにこの仕事をしているんだろう」と、初心を見失いかけることもありました。
そうした状況の中、約1年前に千葉県一宮町に解体処理施設ができたため、現在はそこへ持ち込むことで、枝肉(頭や内臓、皮を取り除いた状態)としての販売に加え、部位ごとに切り分けた精肉としても流通する道が開けました。ただ、皮については依然として活用先がなく、廃棄される状況が続いていました。
そんな時に転機となったのが、シシノメラボの大阪谷さんとの出会いです。
「キョンの皮を使いたいんです!」と声をかけていただいたとき、その熱い想いに強く共感しましたし、本当に嬉しかったことを今でも覚えています。
―駆除の先に、循環という選択肢が生まれた
■シシノメラボ(大阪谷さん)と出会い、何が変わりましたか?
宮嵜さん:
大阪谷さんと出会ったことで、捕獲した獣の皮を廃棄せずに活かせるようになりました。以前はすべて処分していましたが、今は大阪谷さんにつなぐことで、革製品として新たな形に生まれ変わっています。
大阪谷さんは、皮だけでなく、頭骨を使ってアーティストとコラボレーションするなど、本当に命を最後まで無駄にしない方です。その姿勢にはいつも刺激を受けています。
また、今年はシシノメラボの取り組みによって、解体処理施設に冷凍庫が設置されたと聞いています。これまで廃棄されていた皮も、原皮の品質を保ったまま保管できるようになり、革製品としての質や価値もさらに高まっていくと思います。
駆除した命を最大限に活かすための、とても重要な一歩だと感じますね。
■シシノメラボの社会的意義について、どう感じていますか?
宮嵜さん:
シシノメラボは、猟師だけでは担いきれない、“社会に伝える役割”を引き受け、廃棄される命を減らす仕組みを示してくれています。
自分たちの中だけで完結させるのではなく、イベントや展覧会などを通じて、外に向かって発信し続けている姿勢にも強く共感しています。
オンジュクジビエラボラトリーの代表としても学ぶことは本当に多く、心からお手本にしたい存在です。
―里と山をつなぐ「バトン」
■「里と山が共存する未来へ」「命の循環」というテーマで伝えたいメッセージはありますか?
宮嵜さん:
今、獣の数に対して捕獲に関わる人の数はまだまだ足りていません。だからこそ、これからは“仲間づくり”がとても大切だと感じています。今後、狩猟免許を持つ人を増やしていく必要がありますが、必ずしも猟師を専業にする必要はありません。別の仕事を持ちながら関わる人や、仕事を半分ずつ両立している人もいます。そうした多様な関わり方があることを、もっと知ってもらいたいですね。
この仕事は、「バトンを渡す仕事」だと思っています。
ひとつは、生き物の命を次につないでいくという意味です。駆除という形で命をいただく以上、そこで終わらせず、どう活かし、どう社会に還していくのかを考え続ける。それを託されているように感じています。
もうひとつは、人の想いをつなぐという意味です。この仕事をしていると、地域の方から「頼りにしているよ」「いてくれて助かるよ」と声をかけてもらうことがあります。その度に、この仕事が地域にとって欠かせない存在であることを実感しますし、その信頼や期待を途切れさせてはいけないと思っています。
里と山、どちらも大切にしながら、命と向き合うこの仕事を次の世代へつないでいけたらと思っています。
―シシノメラボから見た宮嵜さん
シシノメラボ(大阪谷さん):
「捨てたくない」という価値観を持つ猟師さんに出会えたことは、私たちにとって本当に心強い出来事でした。宮嵜さんは、捕獲して終わりにするのではなく、その先にある意味や行き先まで考えて行動してくださる方です。
私たちが目指していることと、向いている方向が同じで、職種は違っても“一緒に仕事をしている”という感覚があります。知人の紹介で出会いましたが、今ではチームであり、仲間だと思っています。
