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シシノメラボ 共創と循環

命を料理でつなぐということ。
ジビエ料理人・岡田さんが語る、一頭の命を活かす責任と誇り

KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)シャルキュトリーシェフ・オーガニックブリッジ施設長/岡田 修さん

野生動物の命をいただくという行為は、私たちの日常の中では見えにくいものになっています。しかし、現場ではその一頭一頭に真摯に向き合い、命を無駄なく活かしきろうとする人たちがいます。
今回お話を伺ったのは、ジビエ料理人(シャルキュトリーシェフ)であり、オーガニックブリッジ施設長を務める岡田修さん。料理の現場から見たジビエの可能性や命への向き合い方、そしてシシノメラボの取り組みについて語っていただきました。

―料理人として、ジビエにたどり着くまで
■岡田さんのこれまでの歩みを教えてください。
岡田さん:
26歳の時にフランスへ渡り、6年間修行しました。そこで出会ったのがジビエです。野生動物を扱う料理の奥深さに触れ、完全に“ハマってしまった”のが原点ですね。
帰国後は都内の老舗フランス料理店でシェフを務め、シャルキュトリー(食肉加工)の技術を磨きながら自分の店を持つなど、料理人としてのキャリアを重ねてきました。
転機が訪れたのは約12年前。当時営んでいた店に、クルックフィールズの代表が食べに来てくださったんです。そこで、ジビエの話や「食と農の循環をテーマに、こんな場所をつくりたい」という構想を聞き、「一緒にやらないか」と声をかけてもらいました。
そして約10年前に、クルックフィールズに合流しました。

■ジビエのどのような点に惹かれたのですか?
ジビエの魅力は、やはり“個体差”にあります。
家畜のように管理された環境で育つわけではないので、同じ種類でも肉質は驚くほどバラバラです。その一頭一頭と向き合い、どう料理するかを考えることが、難しさでもあり、何よりの面白さだと感じています。

―「一頭の命を余すことなく活かす」という覚悟
■料理する上で、大切にされていることは何ですか?
岡田さん:
ひとつは、「一頭の命を余すことなく活かすこと」です。一般的な流通ではロースやバラといった人気部位だけを仕入れますが、ジビエは基本的に一頭丸ごと引き受けます。特定の部位だけを使うわけにはいきません。使われない部位が出るということは、“命のロス”を意味します。この考えはフランスの修行時代に叩き込まれたものですが、クルックフィールズに来てから、より一層強くなりました。
例えば、スジが多く敬遠されがちな「すね肉」も、「どうすればおいしく食べてもらえるか」を考え抜いて調理法を工夫します。それも、命を最後までいただくための大切な過程だと思っています。

もうひとつは、「メニューを更新し続けること」です。
私のシャルキュトリーでは、毎週3〜4種類の新メニューを出しています。ジビエには「独特の風味」「色が地味」といった先入観を持たれがちですが、それを覆したく、色鮮やかで思わず手に取りたくなるような華やかな商品づくりを意識しています。
正直、これほど手間をかける出し方は効率的ではありません。でも、誰かが先陣を切らなければ、ジビエの本当の価値は広がっていかない。クルックフィールズには、お子さま連れのご家族からご年配の方まで、幅広い世代の方が訪れます。だからこそ、ここが“ジビエの入口”になれると信じているんです。

■「いのちをいただく」というテーマと、日々どう向き合っていますか?
岡田さん:
「有害鳥獣」という言葉がありますが、それはあくまで人間側の都合で決めたレッテルにすぎません。彼らはただ、一生懸命に生きようとしているだけなんです。
そうした命が、私の料理を通して誰かの口に届き、「美味しい」と言ってもらえた時。その瞬間、私はその命が初めて報われ、成仏したのだと感じます。この仕事は、ある種の“葬儀屋”に近いのではないかと思っています。丁寧に整えられ、食べられ、エネルギーとなって次へつながっていく。その循環の橋渡しをすることこそが、命を生かすということだと考えています。
また、施設に隣接された「オーガニックブリッジ」で私自身が解体・処理から手がけていることも大きいですね。命の最初の段階から関わることで、その重みを肌で感じ、より丁寧な一品として届けることができる。それが、ここで料理をする意味だと思っています。

―料理と革に共通する、“素材を活かしきる”という思想
■シシノメラボの取り組みについて、どんな共感を覚えましたか?
岡田さん:
ジビエ料理は、食べてしまえば記憶の中にしか残りません。一方で、革製品は形として残り、使うたびにその個体の存在を思い出させてくれます。
手法は違えど、「素材を無駄にせず、新たな価値を与える」という思想はまったく同じです。シシノメラボの取り組みは、とても自然で理にかなった活動だと感じています。

―地域とともにつくる、循環する食のかたち
■クルックフィールズが実践している「循環型の食と農」の考え方を教えてください。
岡田さん:
クルックフィールズでは、農業・畜産・加工・レストランがすべてつながっています。
「育てる・作る・食べる・還す」という一連の流れが、ひとつの循環として設計されており、“誰かのゴミが誰かの資源”になる仕組みが成り立っています。
例えば、野菜の皮は捨てずに堆肥や鶏の餌にすることで、鶏は卵を産んで恩返しをしてくれます。ジビエも同様です。猪の端肉は挽いて出汁に使い、残った筋は養鶏の飼料に混ぜます。骨は出汁を取った後、焼いて炭にして粉砕したものを土に戻します。
こうして余すことなく循環させることで、豊かな自然のサイクルを育んでいるんです。

■地域と関わる上で大切にしていることは何ですか?
岡田さん:
行政、猟友会、処理施設。それぞれが単体で奮闘している地域も少なくありませんが、木更津市ではこの三者がしっかり連携していて、必要な時には必ず誰かが次へとつないでくれます。
地域と関わる上では、このネットワークと信頼関係を大切にしながら、地域全体で命に向き合っていく姿勢が何より重要だと感じています。

―料理の先へ、命の循環を拓いていく
■今後、どんなことに挑戦していきたいですか?
岡田さん:
ジビエが日常の食卓に並ぶまでには、まだ長い時間がかかるでしょう。だからこそ、地道な“啓発”と“挑戦”を止めてはいけないと思っています。

クルックフィールズには畑もあるので、ジビエと旬の野菜を掛け合わせた、その時期にしか出会えない料理をつくれるのが強みです。「今、この場所に来なければ食べられないもの」を表現できるのは、ほかにはない価値だと思っています。
人間は常に変化し、進化していきます。料理だけが立ち止まっていたら、きっと置いていかれてしまう。だからこそ、これからも新しいメニューづくりに果敢に挑戦していきたいですね。

また最近は、「膠(にかわ)」と呼ばれる、動物の骨や皮などを煮出して作る天然の接着剤づくりにも取り組んでいます。料理以外にも、命の活かし方にはいろいろな可能性があるんです。来年はゼラチンづくりにも挑戦してみたいですね。

―シシノメラボから見た岡田さん
シシノメラボ(辻榮さん):
岡田さんの料理は、その彩りの豊かさに毎回驚かされます。
メニューを固定してローテーションした方が効率的なのは間違いありませんが、岡田さんは常に新しい表現を探し続けています。その姿勢が本当にすごいと思います。
今後は、シシノメラボが企画するイベントなどにも岡田さんをお呼びしたいですね。クルックフィールズを訪れる人だけでなく、一流のジビエ料理人が目の前で調理し、獣が捕獲され、食になり、革になる。そんな命の循環を体感できる場を一緒につくれたら面白いな

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